1年前と同じは厭だった。東京から四国に渡るまでラッシュ状態というのはとても疲れる。それでもカロリーを消費していたりしたら、まあ、運動だから、と諦めることも可能だし、すがすがしさもあるのだが、残念ながらカロリーはほとんど消費しない。何しろ、動かない。座れなかったのはごく一部の区間だけだった。
今回こそは、「青春18」という名の極貧旅行はすまい、と考えていたのだが、年末にいろいろと出費がかさみ、それしか選択肢が残っていなかった。ただ、1年前と全く同じ行程は辿りたくなかった。東京駅始発の静岡行きから始まる、休憩なしの鈍行乗り継ぎ。
まず、急ぐことをやめた。急ぐから辛いのだ。本来、各駅停車なんて、ラッシュ時間帯をはずせば、そうそう混雑するものではない。みんなが考えそうなルートを辿るから、辛いことになるのだ。静岡まで乗り換えなしの各駅停車は、今となっては貴重な長距離ランナー。加えて、車両は大垣夜行の合間利用で特急型。大垣夜行は季節列車に格下げになり、合間利用はなくなった。にもかかわらず、以前と同じ車両。東京駅早朝初とはいえ、人気が出ないはずがない。これよりも早い、品川始発に乗ればガラガラだろう、と予想したのだけれども、ネットで検索してみると、年末はその電車も混雑するとのこと。ここですっぱり東海道線を諦めた。中央本線に決めた。
ここで問題となるのは、どう頑張っても、その日のうちに四国の目的駅までたどり着けない、ということだ。東京駅始発でも一部区間特急でワープしないと、たどり着けないのだ。少しも遠回りする余裕なんてない。京都や大阪といった大都市のカプセルホテルに転がり込むしかない。1区間ワープよりもかなり高価になる。ネットカフェという手もあるが、人生で未だにネットカフェに入ったことがないので、不安が先にたつ。夜行の普通列車は、かつては紀勢本線にあったが、今はもうない。
他の選択肢はフェリーだ。神戸から高知、和歌山から徳島、大阪から松山、柳井から三津といった航路をかつては利用したことがある。時刻表をめくってみると、フェリーの現状は超寂しいものになっていた。
高知行きは全滅。大阪―松山―別府便はやたらと値上げしていて、とても利用する気になれない。しかも関西汽船とダイヤモンドフェリーというライバル同士が二社で一航路を担当している。徳島便はあるが、港から徳島駅への交通の便が問題だった。早朝にバス便がない。かつては小松島につけば、駅はすぐだったのに。柳井三津便は相変わらずの24時間ダイヤだが、その日のうちに柳井港まで到達できない。フェリーは諦めるか、と思って時刻表を眺めていると、神戸と高松を結ぶフェリーがあることに気がついた。夜行便もあり、しかも、料金1800円。嘘みたいな値段である。神戸側は三宮から歩いていける距離で、高松側は駅から遠いがフェリー到着後必ず無料連絡バスがあるとのこと。ジャンボフェリー、これしかない、と狂喜した。
三宮に遅くとも23時くらいに到着すればいい。そこから逆算していくと、中央線で名古屋に行くのももったいない。まあ、名古屋観光でもすればいいのだが、年末でそんな気分じゃない。そこで、今まで何度も自動車から眺めたことはあるが乗ったことのなかった飯田線に乗ることにした。かつては全線を通して乗ると半日以上かかったものだが、現在はわりとスピードアップがされていた。飯田線は新快速の始発、豊橋に到着するというメリットもある。そこから新快速―各駅―新快速と乗り継げば、すぐに三宮。問題は中央線と飯田線の接続。飯田線はローカル線なので、頻繁に電車が出ているわけではない。一番都合がいいのは、朝の高尾駅発松本行き電車。上諏訪でばっちり乗り継げる。だがしかし、高尾駅発の電車に乗るためには、池袋始発の山手線に乗っても間に合わない。東京の道路地図をじっくり眺め、アパートから一番近い中央線の駅は荻窪駅だということがわかった。荻窪駅からなら、始発に乗らなくても高尾発の電車に間に合う。ただ、ぱっと見、距離が5キロはある。タクシーなんぞを使うのなら、そもそも18切符なんて買わない。そのぶん、新幹線に乗ったほうがマシってもんだ。徒歩。1時間強。明け方の寒い時間帯に大きな荷物を持って、1時間以上の歩き。已むを得まい、と諦め、歩くことにした。
翌朝、高松。素直に帰ってもいいのだが、18切符としてはもったいない距離。高徳線で徳島を経由し、阿波池田から多度津に出て予讃線で帰る、という経路に決めた。せこいといえば、まあ、そうなんだけれども、長年四国に住んでいながら、まだ鳴門線に乗ったことがないので、この機会に乗ってやろう、と思ったのだ。牟岐線も南小松島以南は乗ったことないが、さすがに甲浦(途中から第三セクター)まで行くと、これまたその日のうちに帰れなくなる。ちょうど徳島本線も乗ったことがなかったので、今回のルートに決定した。
そして、目的駅到着は夕方。楽勝である。心配はジャンボフェリー。安すぎて不安。もしかしたら廃船間近のボロボロの幽霊船かもしれない。カラオケ店なみに一人ワンドリンクみたいな制度があって、実はもっとお金を取られるのかもしれない。お金が払えないと、夜の瀬戸内海に放り出されるのかもしれない。いや、むしろ、外国に売り飛ばされるのかもしれない。もしかして、山椒太夫の話みたいになっちゃうのか? 悪い想像がどんどん膨らんだ。が、最悪、港から引き返して三宮で一晩過ごせばいいんだし、まあ、なるようになるだろ、と結局は楽観的に考えることにした。
完璧とは到底言えないが、なんとなく計画ができあがったのが出発前日の夜11時。何があるかわからないので、午前3時30分にはアパートを出たい。そして、旅の準備は全くの手付かず。まだ晩飯も食べていない。どうやら徹夜で二日間の強行軍に出発しなければならないようだった。
(つづく、かも)